序章2008-03-31 Mon 23:40
大地が赤く燃えている。
見渡す限り、若々しく生い茂った草花で埋め尽くされた大地。 小さく可憐な羽虫たちは、溢れるリズムに精一杯の声を添えて、歌い踊る。 まるで永久の春を思わせる風景。 子供の頃聞かされた歌物語。頭の中だけの美しく淡い色彩に溢れた場所。 お伽噺を聞きながら頭に浮かぶイメージは、この風景から創られたのだろう。 それ程に、この地は美しく整っている。 その幻想の世界が、おびただしく散乱した鉄の塊、汗や汚物によって埋め尽くされ、 どす黒く乾いた液体によって染められていた。 時折聞こえる細く儚い嗚咽のような音・・・。 その中心に一人の女性が立っている。 繊細なガラス細工を思わせる、腰まで伸びた金色に輝く髪。 均整の取れた体つきは、頭から足先までが一つの素晴しい彫刻のようだ。 遠目には、成熟した大人の女性そのものだった。 だが、赤く翳った光に照らし出されたその顔は、 まだ幼く年端のいかない少女のそれだった。 恍惚の色で満たされている表情は、今にも消え入りそうな弱々しい立ち姿とは、 明らかに異質な力を感じさせる。 この世のものとは思えない、形容し難く冒し難い存在。 「あは・・・あはははは・・・」 鬼気とした笑い声を漏らしながら、女性は、眼前に広がるこの光景に、 愛し惜しむような目付きで見入っていた。 そして、おもむろに頭上を見上げると、その両手を中空へと差し出し、 覚束ない足取りで、一歩、また一歩と、彷徨うように歩き始めた。 その手の中にある夕闇の空が、ゆっくりゆっくりと回り出す。 内に拡がる悦楽が体を支配し、抗いようもないその感情が歓喜の渦となって湧き立つ。 その細胞全てが脈打つような感覚を肉の器が自然に表現しているようだ。 虚ろな目の奥には妖しい光が宿っていた。 「壊せ・・・壊せ・・・壊せ・・・」 繰り返されるその言霊を、この大地だけが聞いている。 無音となった世界で、少女の刻む旋律だけが、紅の草原に響いていた。 |
全ての方に捧ぐ2008-03-31 Mon 22:30
歴史というものは実に面白いものだ。
多くの書物、多くの語り部たちが紡ぎ合う壮大な叙事詩。 それらの言葉を目で追いながら、刻の流れに思考を委ね、見知らぬ過去に思いを馳せる。 その人間がどう生まれ、どう生き、どう死んでいったか・・・ 善とされる人間。悪とされる人間。語られない人々。 言霊に住む全ての生命の営みが、想像と創造の産物。 事実として語られるものの中に、人の心を映さない冷徹で無機質な流れが、 果たして存在するであろうか。 人々の創生は今も尚、留まることを知らない。 忘却された欠片を求め、思考の迷走は止まらない。 探す者と語る者 想う者と記す者 惑う者と悟る者 いつになっても、それらの相反する境界線は、曖昧と矛盾を含み深い霧の中にある。 このパズルを埋め、壮大な一枚の絵を完成させる叛律者。 際限のない人の欲望が、世界を知る、唯一なる神への扉へと無数の階段を創り出す。 この壮大な世界の中では矮小なる一個人に過ぎない。 しかし、世界の形を紡ぐのもまた、そんな一人の人間なのだ。 「完全なるものなど、この世に存在しない。故に、私たちが存在する場所が生まれる。 私の為の物語も、貴方の為の物語も、この世界を紡ぐ大切な欠片の一つとなる。」 |
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