お知らせ2008-05-17 Sat 10:23
更新が滞り申し訳ございません。
私事ですが、現在、先のアップデートにより操作が上手く出来なくなっており、 デコは隠居状態にあります。 運営に問い合わせしての返信待ちの状態(今は未確認→受付中)ですが、 使用改善の可能性がない場合、残念ながらこれ以上続けることが出来ません。 それがはっきりとするまでは、ブログの方も停止という形を取らせて頂いております。 読んで下さっている皆様にお礼を申し上げますと共に、お詫び申し上げます。 運営からの返答が明確になり次第、ここで報告致しますので、どうか今しばらく お待ち下さい。 |
惑いの封書2008-05-08 Thu 21:39
それを見つめる自分の姿が、ひどく虚ろなものに思える。
視界が一点に凝縮されたように狭まって行き、周囲の景色が 霧のかかったように消えていく。 体の奥底にある魂が、何かに反応し引き寄せられ、外へと飛び出そうと しているかのようだ。 コンッ コンッ 意識が朦朧とする中、木製の扉が小気味良いリズムと音を響かせた。 その音で、ハッと我に返り、扉の方へと視線を送る。 「お、お客さん、居られますか?」 扉の向こうから、年季を感じさせる野太い男の声が聞こえてきた。 その声はこの宿の主人のものに違いなかったが、何か違和感があった。 「ご主人か?どうした?」 扉越しに軽く応える。相手の声の様子から、心の中で警戒し身構えたが、 声でそれを悟らせるような真似はしないよう注意を払った。 「貴方に会いたいという方が、お見えになっておりますが・・・。」 昨日この街へとやってきたばかりの身に、すぐに思い当たる知人がいるはずもない。 差当たって言えば酒場で仕事を頼んだ情報屋だが、以来の内容は昨日の今日で 片付くものではないはずだ。 壁に立て掛けてあったものを手元へと引き寄せ、ベットの脇に置いた。 そして、その前へと毛布を手繰り寄せ目立たないようにする。 「ありがとう、通してくれ。」 もしも昨日の連中ならば、わざわざ主人が取り次ぐのを待っていることは ないだろう。襲う気ならば部屋が分かればすぐに押し入ってくるはずだ。 しかし、物事に絶対はない。 主人に取り次ぎの礼を言いつつも、目は部屋の様子を把握する為 忙しなく動かしていた。それは、万が一の場合を想定した何時もの癖でもあった。 ギィィーッ 取り付けの金具が軋むような音を立て、扉がゆっくりと開いていく。 その間、意識の中で、自分の立ち位置と扉との距離をもう一度測り直した。 「失礼致しますっ!」 想像を裏切る、元気の良い若々しい声が、室内に凛と響き渡った。 開いた扉の影から現れたのは、艶やかで真っ直ぐな淡い栗色の髪に、 爛々と大きな目を輝かせ、頬に幼さの残るそばかすを蓄えた少年だった。 「突然の来訪、申し訳ございませんっ!」 少年は、意義を正すかのようにキュッと直立し敬礼の構えを取った。 「私、この町の副領主リオネル・H・クールド様の侍従を務めます、アルトと申します!」 固い礼式と物言い、強張ったような表情が何とも新鮮で青い雰囲気を出している。 容姿から読み取れる年齢と言い、まだ勤め始めて日が浅いのだろう。 「で、その副領主様の使いが何のようだ?」 よく見ると目の前の少年の胸の辺りに、獅子の紋章を象った金色の刺繍が為されている。 その意匠にしばしの間、目を奪われながら昨夜の事を思い出していた。 カトラスという組織との喧騒。そこの副頭目と名乗り、戦いを挑んできたヒルダという女性。 その間に割って入り、その場を支配する感じで事を収めた貴族の男・・・。 「リオネル様が、貴方様に謁見をお許しになりましたので、お迎えに上がった次第です!」 必要以上に、語気に力を込める様子が何とも微笑ましかった。 疑いもなく真っ直ぐにこちらを見据える目が、この少年の性格を如実に現しているようだ。 「謁見など、頼んだ覚えが無いのだがな・・・。」 「えっ・・・。」 こちらを直視していた目が、困惑の表情と共にサッと弛んだ。 明らかな狼狽振りに、こちらの方が申し訳ないことを言ったかのような錯覚すら覚える。 「あの、その、えっと・・・。私、閣下と謁見者の取次ぎが勤めなのです・・・。」 目を伏せがちに落とし、何やら忙しくモゾモゾと服の中をまさぐっている。 その動きが止まると、こちらを向き直り、懐から取り出した一通の書面を広げた。 「主人に聞いた客の特徴から、貴方様しかいないと思ったのですが・・・。」 その書面には、この宿の住所と思わしきものと、こちらの人相を伝えるものが 事細かく書かれていた。風体・体格・持ち物に、同伴者の有無。 その中でも、一見して分かる特徴は顔の傷だろうか。 ただ、名前の欄だけは空白になっている。 「この特徴を持った方は、他の泊り客の皆様には居られないようでしたっ!」 貴方しかいないと言いたげな顔をし、じとっとした目でこちらの様子を見ている。 「だが、許可を願ったのは俺じゃあない。」 その目をかわすように、興味の無いと言った様子で手を振り、近くの椅子に腰掛けた。 少年は、どうしたものかと思案に明け暮れている様子だったが、 ふと思い切ったように目の光を強くすると、もう一度直立の姿勢を取った。 「とにかくっ!貴方をお連れしないと私が叱られ、いや、任務を全う出来ませんっ!」 その鼻息がこちらまで届きそうな程、少年は興奮した面持ちで言った。 だが、目には薄っすらと哀願するような色が浮かんでいる。 「と・・・言われてもなあ・・・。」 少年の勢いに圧され、困ったように頭をポリポリと掻いた。 先ほどの書面を思い出すと、副領主の目当ては明らかに自分だろう。 だが、こちらを呼び出す意図がわからない。 迂闊にほいほいと付いて行くには、判断材料が少なすぎる。 相手の身分が高すぎる為、無下に断るのは得策ではないが、用心に越したことはない。 幸い、昨日この街に来たばかりの自分の素性は、はっきりとは漏れていない。 ここは断るという選択肢が一番だろう。 「あっ!」 こちらの様子を不安げにオドオドと覗っていた少年が、 突然、通りならば誰もが振り返るような大きな声を出した。 そして、もう一度、忙しない様子で懐をまさぐる。 「今回に限り、先方が直ぐに招きに応じない様子なら、これを渡せと・・・。」 と言って、懐から一通の手紙らしきものを取り出した。 それを渡そうとする少年の目は、切り札があった安心感からか、 先程とは打って変わった様子で、爛々と明るく輝いている。 勢い良く伸ばされた手から羊皮で包まれた封書を受け取り、紐を解く。 そこには一見読み難いような、走り書されたような文字が羅列してあった。 男と少年の間を、音の無い静かな時間が覆った。 開かれた窓からは、新鮮で優しい風が絶え間なく入ってくる。 室内には、キラキラとした陽光が木漏れ日のように降り注いでいる。 手紙を読み終えた男は、封書を元に形に包み、紐でキュッと結んだ。 それを荷物の中に入れ無言で立ち上がると、そのまま戸口へと歩み出た。 その間、顔は少年の方へと向け、行くぞと指示を送るように顎を扉の方に軽くしゃくった。 男が動き出したのを見て、少年は、パッと嬉しそうな表情を作ったが、 思い返したようにキュっと固い表情へと作り直した。 そして、小走りで男を追い越すと、その手を誘うかのように歩き出したのだった。 |
虚構と現実2008-05-02 Fri 22:35
パチパチと弾けるような激しい音を立て、全てのものが赤く染まっている。
軒並ぶ家、その家畜、そしてそれに順ずる多くの人間たち。 (燃える・・・俺の・・・俺の大切なものたちが・・・) 目の前に、業火の光を反射させ、赤く不気味に輝く刀が地面に突き刺さっていた。 その刀身の乱れ刃紋を、炎の光とは別の紅いものが伝っている。 何より目を惹くのが、人の背丈程にもなるその長さだった。 その後ろに、こちらを見下ろすようにして男が立っている。 その目は、極寒の極地を思わせるような、冷たく凍てついた光を放っていた。 「脆いな・・・。」 男はそう言うと、地面から刀を引き抜いた。 地に這いつくばる『自分』を氷のような目で見下ろす『自分』。 火の粉を放ち、ゆらゆらと昇り行く炎。刀の先端が天へと向かっていく動き。 その光景を宙空から眺めるもう一人の『自分』。 時が世界の因果律から外れ、一点に凝縮されたような感覚。 「終わりだ・・・。怨むなら、何一つ救えない己の弱さを怨め。」 男の声が頭の中へと響く。それが、自己の魂を元の世界へと引きずり戻した。 ふと目を上げると、振り上げられた男の手が、非情な勢いでこちらへと迫っている。 「!!」 飛び上がる程の勢いでガバッと跳ね起き、目をかっと見開く。 その視線の先にあったものは、装飾もなく白く塗られただけの無機質な壁だった。 その白さが、薄くぼんやりと霞んで見える。目線を下ろすと、淡い茶色の毛布が 腰の辺りに掛かっているのがわかった。 意識と感覚が現実に追いついてくると、全身に感じる大量の汗の跡が 何とも熱く、不快で気持ちが悪い。 「夢・・・か。」 夢と現実の境が混濁する中、自分に言い聞かせるようにそう呟いた。 (それにしても・・・ひどい夢を見たものだ・・・。) 昨夜の戦闘の余韻に因るものなのか、それはわからない。だが、 手に残るざらついた砂の感触。周囲を蝕む炎の熱気が肌を打つ感覚。 背筋を凍らせる男の目と、その手に持つ刀が流していた血の涙。 全ての質感が現実そのものだった。 「痛ぅっ!」 思わず顔を手で覆う。瞬間、顔を縦断するように走る傷を、 抉られるような痛みが全身を走り抜けたのだ。 (何なんだ、一体っ!) その不意にやってきた激痛よりも、得体の知れないものにしつこく付き纏われるような、 そんな悪寒が背中から離れず、苛立ちを積もらせる。 全身の震えを抑えることが出来ず、爪が食い込む程に固く握りこんだ手が ミシミシと悲鳴を上げている。 「くそっ!」 吐き出すような声と共に、ドスンという重い音が室内に響き渡る。 心の中に留まり、負の感情を作り出しているものを、思い切り殴りつけ破壊する、 その衝動を壁に向かってぶつけたのだった。 「う・・・うぅ・・・。」 頬を伝わる熱いものが、止め処なく溢れてきた。 何に対して悲しむのか、何に対して憤るのか、なぜ涙が流れるのか。 今の自分には、その理由さえわからない。 ただ、理解出来ることが一つある。 それは、自分があの日、全てを失なってしまったのだということ・・・。 潤んだ目に飛び込んでくる光が、青々とした空の色を予感させる。 窓から外を覗くと、目に映る景色全てがキラキラと輝き眩しい。 闇からまた、新しく生まれた光たちが、そのエネルギーを存分に発散させている。 「この国で・・・俺は・・・。」 自分にも耳でも微かに聞こえるだけの小さな声で、己の体に問いかける。 その視線の先には、壁に立てかけるようにして置いてある、漆黒に染められた長い布と、 それに包まれた『もの』だけが映っていた。 |
追憶の光2008-05-01 Thu 21:44
カツン、カツンと、硬い地面を打つ足音が辺りに響く。
乱れのない音のリズムと、上下左右に揺るぎなく歩く姿は、 その者が並みの使い手ではないことを感じさせる。 男たちは、先程抜いた剣を急いでしまうと慌てて膝を付いた。 そして、目を合わすのも恐ろしいかのように頭を垂れ、視線を落とす。 その光景を横目にしても、全く意に介す風もなく足取りは変わらない。 それが、さも当然だという様子でこちらへと構わず進んでくる。 月明かりが、徐々にその全体の容姿や輪郭を浮かび上がらせている。 はっきりとは判別出来ないが、歳の頃は20代後半と言ったところか。 黒く長い髪は、しっかりと頭の後方で束ねられてはいるが、 その広い肩幅と肉の付き方が、この者が男であることを教えている。 身の丈は自分と同じくらいだろう。 光に反射し強い光を放つ瞳が、整った顔立ちに強い印象を与えている。 そして、腰に帯びた剣の鞘には、色彩豊かに光を放つ装飾が施されており、 男の容易ならざる地位を物語っていた。 「夜のダンスはそこまでだ。続きは舞踏会でするんだな。」 男は、数歩の距離まで近付くと、軽い調子でそう言った。 「これはこれは、副領主様・・・。供も連れずに夜の見回りですか?」 ヒルダは慇懃に礼をしたが、その口調にはたっぷりと皮肉が込められていた。 「相変わらずだな・・・、ヒルダ。」 男は口元に苦笑いを浮かべ、困ったようにポリポリと頬を掻いたが、 おもむろに右手を上げるとパチンと指を鳴らした。 すると突然、辺り一面が昼のように明るくなった。灯りの場所を探るように周囲を見渡すと、 屋根の上にかなりの数の松明が煌々と燃えている。 「既に手の内ってわけね・・・、何時から見ていたの?」 ヒルダは、睨むようなきつい視線を男に向かって飛ばしている。 「君が戦う雄姿を俺が見逃すはずがないだろう?最初からさ。」 男は、真剣に問うような顔つきをして見せたが、 すっと表情を和らげると、軽く受け流すかのようにそう答えた。 「相変わらず抜け目がないのね・・・リオン。」 「優秀な目が俺には付いてるし、それだけが取り得なんでな。」 リオンと呼ばれた男はにやりと口を緩ませると、もう一度指を鳴らした。 その指の音に呼応する形で灯りは一斉に消え、再び夜の闇がやって来た。 強い光を凝視したせいか、それは先程よりも暗く太いカーテンだった。 男の勝ち誇った様子に、ヒルダは飽きれた感じで溜息をついた。 そして、手にしている剣を一度下に払うと、すっと鞘に納めた。 「仕方が無い、今日はあんたの顔を立てといてあげるよ。」 「それは有難いな。俺の立場が無い場合を思って、座る場所を探していたよ。」 リオンはおどけたようにキョロキョロと辺りを見回し、冗談めかしてそう言った。 そして、くるりとこちらに顔を向ける。 「そこの御仁もそれで宜しいか?まあ、元より争う気が薄かったようだが・・・。」 その問いに、声を出さずこくりと顔を縦に振ると、リオンも満足気に大きく頷いた。 「よしっ、今日のパーティーは終了だっ!各々さっさと寝床に戻って宜しくやるんだなっ!」 集まった男たちを見回しながら、貴族とは思えない口ぶりでそう言うと、 リオンは改めてヒルダの方を向き直った。 「ところで、ユーリは元気か?ヒルトも?」 「ああ・・・、だが、もうあんたには関係ないだろ。」 ヒルダの表情が急に暗くなり、その問いが明らかに迷惑であったような顔を作った。 その口調も、無理矢理に突き放す感じにしているように思えた。 「そうか・・・元気なら・・・、元気ならそれでいい・・・。」 先程まで余裕を前面に出し、不適とも取れたリオンの表情も暗く曇っている。 ヒルダの返答を受け、自分に言い聞かせるように小さな声で呟くと、 さっと踵を返し背を向けた。 リオンの動きを受け、ヒルダも仲間たちの方へと早足で歩き出す。 男たちの集団は、腕の痛みで泣きじゃくるコルスを運ぶ為、四苦八苦している。 歩いて行くヒルダの背中を、どこか悲しげな様子で眺めていたリオンが、 ふと思い出したかのようにこちらへ向いた。 「先程の戦い、見事な手並みだった。宜しければ名前を聞かせてもらえまいか?」 「・・・・。」 唐突にそう聞かれ、どう答えるべきか迷った。すぐに名を告げれず無言になったのは、 隠す訳でも言いたくない訳でもない。今は唯、『言えない』のだ。 「そうか・・・、まあ良い。何れまた会う時もあるだろう。その時に聞こうか。」 リオンはこちらが口を開く様子の無いことから、察したかのようにそう言うと、 ヒルダを追いかけるようにして歩き出した。 その後ろ姿が闇に消えたことを確認すると、不意に全身を疲労感が襲った。 すぐに動く気にもなれず、その場に腰を下ろし後ろへと倒れ込む。 大の字に寝そべり、黒く澄みきった空を仰ぎながら、ひんやりとした大地の感触を しばし楽しんだ。闘いで火照った体にはそれが何とも心地良かった。 (全てが上手く行く日というのは・・・無いものだな・・・。) そう自戒しながら、星の瞬き一つ一つに記憶の欠片を重ねて行った。 脳裏には、初めての場所で過ごした一日の出来事が鮮明に甦って来る。 そしてそれが、止め処なく自然に溢れ、頭の中を侵食していく様を、 どこかで愉快そうに眺めている自分が居ることを感じるのだった。 |
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