虚構と現実2008-05-02 Fri 22:35
パチパチと弾けるような激しい音を立て、全てのものが赤く染まっている。
軒並ぶ家、その家畜、そしてそれに順ずる多くの人間たち。 (燃える・・・俺の・・・俺の大切なものたちが・・・) 目の前に、業火の光を反射させ、赤く不気味に輝く刀が地面に突き刺さっていた。 その刀身の乱れ刃紋を、炎の光とは別の紅いものが伝っている。 何より目を惹くのが、人の背丈程にもなるその長さだった。 その後ろに、こちらを見下ろすようにして男が立っている。 その目は、極寒の極地を思わせるような、冷たく凍てついた光を放っていた。 「脆いな・・・。」 男はそう言うと、地面から刀を引き抜いた。 地に這いつくばる『自分』を氷のような目で見下ろす『自分』。 火の粉を放ち、ゆらゆらと昇り行く炎。刀の先端が天へと向かっていく動き。 その光景を宙空から眺めるもう一人の『自分』。 時が世界の因果律から外れ、一点に凝縮されたような感覚。 「終わりだ・・・。怨むなら、何一つ救えない己の弱さを怨め。」 男の声が頭の中へと響く。それが、自己の魂を元の世界へと引きずり戻した。 ふと目を上げると、振り上げられた男の手が、非情な勢いでこちらへと迫っている。 「!!」 飛び上がる程の勢いでガバッと跳ね起き、目をかっと見開く。 その視線の先にあったものは、装飾もなく白く塗られただけの無機質な壁だった。 その白さが、薄くぼんやりと霞んで見える。目線を下ろすと、淡い茶色の毛布が 腰の辺りに掛かっているのがわかった。 意識と感覚が現実に追いついてくると、全身に感じる大量の汗の跡が 何とも熱く、不快で気持ちが悪い。 「夢・・・か。」 夢と現実の境が混濁する中、自分に言い聞かせるようにそう呟いた。 (それにしても・・・ひどい夢を見たものだ・・・。) 昨夜の戦闘の余韻に因るものなのか、それはわからない。だが、 手に残るざらついた砂の感触。周囲を蝕む炎の熱気が肌を打つ感覚。 背筋を凍らせる男の目と、その手に持つ刀が流していた血の涙。 全ての質感が現実そのものだった。 「痛ぅっ!」 思わず顔を手で覆う。瞬間、顔を縦断するように走る傷を、 抉られるような痛みが全身を走り抜けたのだ。 (何なんだ、一体っ!) その不意にやってきた激痛よりも、得体の知れないものにしつこく付き纏われるような、 そんな悪寒が背中から離れず、苛立ちを積もらせる。 全身の震えを抑えることが出来ず、爪が食い込む程に固く握りこんだ手が ミシミシと悲鳴を上げている。 「くそっ!」 吐き出すような声と共に、ドスンという重い音が室内に響き渡る。 心の中に留まり、負の感情を作り出しているものを、思い切り殴りつけ破壊する、 その衝動を壁に向かってぶつけたのだった。 「う・・・うぅ・・・。」 頬を伝わる熱いものが、止め処なく溢れてきた。 何に対して悲しむのか、何に対して憤るのか、なぜ涙が流れるのか。 今の自分には、その理由さえわからない。 ただ、理解出来ることが一つある。 それは、自分があの日、全てを失なってしまったのだということ・・・。 潤んだ目に飛び込んでくる光が、青々とした空の色を予感させる。 窓から外を覗くと、目に映る景色全てがキラキラと輝き眩しい。 闇からまた、新しく生まれた光たちが、そのエネルギーを存分に発散させている。 「この国で・・・俺は・・・。」 自分にも耳でも微かに聞こえるだけの小さな声で、己の体に問いかける。 その視線の先には、壁に立てかけるようにして置いてある、漆黒に染められた長い布と、 それに包まれた『もの』だけが映っていた。 |
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